238.8億円の罰金から中国ビジネスのリスクを再認識
中国ライブコマースの女王の薇娅さんが脱税の名目で238億円の罰金が課されることはどう解読すべきでしょうか?
今日の中国ニュースは割と痛いものです。
Twitterでは、すでに様々な心配や憶測がありました。
このニュースに関して、さまざまな解釈がありますが、このような指摘が多いです:
しかし、中国当局が単純に脱税を摘発しただけという認識は間違いだと思います。
一番のリスクは政府
中国に進出している企業皆さんが、必ず理解しているリスクは「政府との関係」です。当然の如く、中国企業の中国人経営層は理解しています。そのリスクをできるだけ低減するように、経営層は大変な労力をかけています。
中国の政府は日本や、アメリカの政府と異なって、想像を絶するぐらいのパワーを持っています。その中に、一番の問題は政府の権力と法律の衝突です。
日本やアメリカの皆さんは当然のように、「政府は法律の範囲内で行動する」と理解しています。それこそ、政府に対して、「everything which is not allowed is forbidden」っていうような諺もありますね。
しかし、中国の各レイアの政府は一応法律の範疇内に行動するのが、曖昧な法律や条例が多いのです。そのことがビジネスに大きなリスクをもたらします。特に政府が曖昧な法律を厳しく解釈したら、本当に阿鼻叫喚な状態になるのは日常茶飯事です。
中国でビジネスを展開するには、まず政府の行動がもたらす影響を考慮しないといけません。このリスクは各地方政府によっても差があります。中国全国各地の外資投資率を見てみればわかると思いますが、外資系企業のほとんどは沿海部の都市に集中しています。特に日本の企業は関係性の深い上海や広州などの都市に集中しています。
単純な脱税問題ではない
今回の罰金に課された対象は中国ライブコマースの女王の薇娅さんです。2021年の10月20日に、アリババの「独身の日(ダブルイレブン)」の先行予約販売イベントで、一人で14.5時間のライブコマースで85億元(=1500億円)の売り上げを叩き出したどんでもない存在です。
まず、理解してほしいのは、このようなスケールのビジネスをやっている薇娅さんは当然のように税務関係は専門家に任せています。しかも、絶対名も無い新卒の「税務専門家」ではなくて、少なくても薇娅さんと綿密に連携しているアリババが認めた「税務専門家」のはずです。
次に、節税と脱税は根本的に違うものです。日本で言えば、ソフトバンクが法人税を納めていないという話しが取り上げられます。
これが脱税行為であれば、ソフトバンクは国税庁から制裁があるはずですが、ありませんので、違法行為ではありません。(しかしながら、世論は強く批判をしています。)
薇娅さんも「節税対策」をやっていたはずです。そのカラクリは、「税務専門家」の意見の元で、アリババの関連者の許可を得た上で行われているはずです。つまり、「節税」はしているが、ビジネスの基本流儀は守っているはず(「脱税」はしていなかったはず)です。そうじゃないと、アリババからのサポートは受けられないと思います。
しかし、その「節税」が突然「脱税」と解釈されたのが、今回の事件の根本にあります。
不服で上告を申し立てれば
日本やアメリカでは、政府の決定でも不服がある場合は、裁判を起こし、法の下に戦い、無罪を勝ち取るために戦う道があります。しかし、中国ではその道がほとんどないことを理解しないといけません。
だからこそ、「一番のリスクは政府」と最初にお伝えしました。
日本やアメリカの商習慣をそのまま中国に持ち込むと、まず壁にぶつかります。正しいかどうかではなくて、実情を理解できるかどうかの問題です。
調べてみたら、中国国内の民間企業が政府を訴えて、勝利するケースは本当に僅かです。
幼稚な考えを捨てる
この記事を読んでいる皆さんは、この話が理解できる人だと思いますので、「単純な脱税」、「脱税を摘発しただけ」のような発言はおやめください。
このようなケースを見る際に、まず裏に何かがあると推測した方が良いと思います。