時代の分岐点の目撃者
中国最大のECイベント「ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル」が先日終了しました。アリババ社の公式PRによると、期間中GMV(流通販売総額)は歴代最高の5403億元(約9.67兆円)でした。
おさらいとして、直近5年のGMVは、以下のとおりです。
2021: 5403億元
、11日間集計2020: 4982億元
、11日間集計2019: 2684億元
、24時間集計2018: 2135億元
、24時間集計2017: 1682億元
、24時間集計
この規模のECイベントにおいて、昨年対比8.5%の成長率を叩き出すのは恐るべきことです。ただ、その中で「今年のダブルイレブンは何か例年と違う」と多くの人が感じていました。
違い1: GMV速報値がない
例年では、アリババの公式アカウントから、速報GMVが微博(ウェイボー)に流れます。
GMVの速報は、この特別な日のシンボルになっています。僕はダブルイレブンにGMVの速報がないことは、野球の試合に点数が表示されないことと同じように感じます。
速報値がないことについて、ECを運営する各社からの公式の説明はないのですが、主流メディアでは「各社が目玉のGMVの数字からユーザー体験に舵を切った」と書かれています。
本当のことはわかりませんが、経営を担う者として、最も効果的なマーケティング方法や宣伝手段を捨てるわけがありません。そこには必ず理由があり、僕が想像できる最大の理由「中国政府の政策転換」です。
独占禁止法の発動
2021年に入って、中国政府がアリババをはじめ、複数の大手ネット企業に「独占禁止法」の罰金を科し、指導に入りました。
中国でビジネスをする場合、優先的に対応するべき事項として、政府との関係性の構築が上位に入ります。外国企業が政府との関係を構築していく際に、さまざまな落とし穴があるのは広く知られていますが、中国国内企業の政府関係はさらに複雑になり、今回の独占禁止法の発動はまさにその一例です。
共同富裕の推進
同じく2021年に、アリババとテンセントがそれぞれ国の共同富裕構想に巨額を出しました。
この二つの大きな向かい風を確認した各社が、GMVの速報値を出さないことは、合理的な選択だと思います。
推測ですが、EC大手の各社から主流メディアに速報値を報道しないでほしいという要望は確実に伝えられたと思います。
違い2:ライブコマース繁栄の光と影
過去3年間、中国のライブコマースは世界に先行した成功事例になったと思います。日本でも中国で盛り上がったライブコマースの様子を見て、さまざまな試みが行われています。
ライブコマースは間違いなく今年のダブルイレブンの主役になっています。アリババ傘下の「タオバオライブ」が中国1位と2位のライブコマース配信インフルエンサー李佳琦(Austin)氏と薇婭(viya)氏の予約販売を行い、なんと一晩の10時間の間に2800億円の売上を作りました。
「利益がない」悲鳴
そのとんでもない数字の影に見えていないのは中小企業の悲鳴です。そもそもダブルイレブンは大きな割引がなしでは、消費者が買ってくれない現実があります。そこに、ライブコマース配信インフルエンサーに支払う宣伝費用が利益をさらに圧迫しています。
「利益がない」という悲鳴はあちこち上がっています。ライブコマースに出品しているマーチャントの共通認識は「ライブコマースの赤字は通常ECで回収」です。しかし、ダブルイレブンのライブコマースの赤字はなかなか回収できていません。インフルエンサーに支払う宣伝費は通常の倍ぐらいになっており、とても負担できないという声がネット掲示板に相次いで出ています。
50%OFFに慣れた消費者
ライブコマースの一つの暗黙なルールは「最低価格保証」です。それを実現するために、ライブコマースに登壇する目玉商品自体は赤字で、別の商品で回収する方針しかありません。その結果、目玉商品は通常の半額ぐらいで販売されることが多いです。ライブコマースの価格に慣れてしまった消費者が、ダブルイレブンの割引にそれほど魅力を感じなくなってしまっているのです。
本来ダブルイレブンのみでも有効な割引価格でした。しかし、ライブコマースの登場により魅力がなくなりつつあります。今後はダブルイレブンの全体の売上にも大きな影響が出るでしょう。
未来の展望
当然、アリババの立場から見ると、全体の売上を伸ばさないといけないでしょう。今年の結果も確かに伸びました。しかし、GMVを公表しても、あまり良い効果がない数字になりつつあり、来年は合計のGMV数字公表しない可能性すらあるでしょう。代わりに、ジャンル別や、テーマ別の数字が公表される可能性はあるでしょう。
これこそ、時代の分岐点です。
我々は目撃者です。
トラフィックの角度から見ると、ECの本質はトラフィック獲得とコンバージョンです。逆に、これがきっかけになって、中国のEC市場では更なるイノベーションが起きると思います。世界のEC先進国として、これからもEC業界を引っ張っていくと思います。
PS: 以下のwikiの記載にダブルイレブンの集計期間が間違っています。誰か更新してね!